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2002.04.26 「アパートの大家さん・その5(最終話)」


さていよいよ最終話だ。
これまでの大家とのごたごたを、
胸にそっと手を当てて思いおこすだけで熱いものがこみ上げてくる。


ボク、よくぞここまで我慢した!


本当のボクは随分我慢強いオトコなのである。



♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

「ワンさんの告白その1」



ある日の夜、
ワンさんが突然ボクの部屋をたずねてきた。


少し寂しげなというか、
当惑したようなそぶりだった。



優しいボクはそんな彼にとりあえず缶ビールを出してやった。



「ふう、ケータ。大陸のオンナはあかんぞ」


「いきなりなにいってるんだアンタ。そうかなー」


「可愛いのがおると思ってすぐ結婚したら、えらい目にあう。
シャオメイは性格もきついしカネにがめつい。
それにやはり大陸の田舎女性と私とでは随分考え方の違いもあるしね」


「あそうですか」


「人と人の間に身分の違いはないと思うけど、
やっぱり身の程の違いってのはあるぞケータ。
生まれた環境とか、
受けてきた教育のレベルとか・・・ 」


「シャオメイが問題だらけだってのはボクも分かるけど、
じゃワンさんはなんでシャオメイと結婚したんですか?」


「私はこの年になって、髪の毛は少ないし、顔もこんなんでブサイクでしょ」


「いやぁ・・・」


「台湾にいてもぜんっぜんモテないし。
お金はそこそこあるんだけど、
台湾の女性は私なんか相手にしてくれないのだよ」


「あそお。でも、それとシャオメイとの結婚に何の関係があるのですか?」


(すこしうなだれつつ)
「ケータ、私は大陸のオンナを買ったのですよ」(本当にこう言った)


「はぁーん?」



「私はあまりに女性に縁がなかったので、
安徽省で若くて可愛い当時まだ二十歳過ぎのシャオメイを・・・」


「ちょっと待てよ。人を買う?あんた自分で何言ってるかわかってんのか?」










「わかってるよ!!でも仕方がなかったんだ。


可愛い嫁さんをもらえば


ボクの人生も少しは楽しくなると、


その時は素直にそう思っただけなんだよ!! 」

















逆ギレかよおい。







可愛いオネーサンを一晩ベッドの上で買うのならまだしも、(良くないけど)
なんか話がすごいことになってきたな。








「で、ワンさんはボクに何がいいたいのですか?」


「いや、なんだかボクも少し疲れてきちゃってね。
こうして彼女に部屋を買い与えてやったのは良いけど(今のボクの部屋と彼女の部屋2つ)
完全に彼女の名義で買ってしまったものだからボクは何も口出しすることができず、
こうしてケータに迷惑かけてしまっているし 」


「え、この部屋彼女にプレゼントしたものなの?」


「そうです」


「いくらで買ったの?」


「一部屋●●万元」


「え、それって高すぎませんか?
多分上海の市場価格の4倍くらいですよ」


「ぐすん。え、そーなの?」


「いくら高すぎると言ってもねぇ、
たかだかこんな部屋でそこまで取るあくどい不動産屋もなかなかいませんよ。
つかぬ事お聞きしますが、
彼女ひょっとしてピンハネして自分の懐に入れていませんか?」


「え」


「あなたが上海に帰ってきてからシャオメイとは話し合いましたか?」


「いやそれが、
彼女ほとんどウチにいなくてどこに行っているのか分からないんですよ」


「自分の子どもおいてですか?」


「たまに帰ってくるんだけど、
僕が話しかけても聞き入れてくれなくてとりつく島もないといった感じで・・・ 」


「・・・・・」


「子どもが可哀相で」


「あのワンさん。
怒らないで聞いてくださいね」


「ええ」


「彼女にあなたの他にオトコがいるような形跡ありませんか」


「実は私もそれを心配しているのです」


「てことは、それっぽい臭いがする?」


「はい。
彼女メイドさんへのお給料の支払いも渋っているようだし、
ひょっとすると・・・」


「あんたから巻き上げたカネを上海でオトコに貢いでる」


「かも・・・」








じーざす。


もしこれが本当だったら、
いまどきドラマでもこんな良くできた話ないぜよ。


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

-あんたしっかりせえよ-






「ワンさん、
優しいのは良いけど、
言うときはビシッといわんとあかんぜオトコは」


「でもあいつは・・・」


「彼女仕事してないでしょ」


「うん」


「田舎から出てきてアンタに買ってもらった部屋でメイドさんに家事やらせて、
今はそれなりの生活をしている気かもしれないけど、
彼女アンタからの金がなくなったら仕事なんてこの上海でそうそう見つからないよ」


「確かにあいつは文字も書けないし、
掃除の一つにしたってできないんだ」


「できないんだって、
人ごとみたいに言うけど、
そういうシャオメイにしたのはアンタだぜ。
甘やかしすぎるのもどうかと思うけど」


「あー、
ケータの話聞いてたらシャオメイのこと段々むかついてきた 」


「こらこら、
むかつくのはボクの方だよ。
あなたたち夫婦間の問題で一番迷惑被ってるのはボクなんだから」


「よっしゃ、
ちょっと彼女と話をしてみよう」


「優しすぎるのもあかんよ。
オトコはたまにはビシッといかんと 」


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


それからしばらくの間、
夜な夜なシャオメイとワンさんの大きな話し声が隣から聞こえてきていたりしたけど、
ボクには関係ないと思ったし、
冷たいことを言うと、
忙しいボクにとってそれは極力関わりたくなくて、
「早く嵐が去ってくれ」
という感じ。

そして何より早くボクとの間で未解決の金銭問題を何とかして欲しかった。






このころになると近所の人たちの見方も随分と変わってきた。


夜な夜な隠れて小便垂れている汚い日本人、
という当初の印象と、
シャオメイが吹き込んでいたであろう様々なボクの悪口。

分かっていながらも面倒なのでボクはあえて何も反論しなかったけれど、
ワンさんが帰ってきて近所の人たちと接触し始めたことによって、
シャオメイの大ボラ吹きと、
金銭に対するずるがしこさが上海人達の間で、
「やっぱり田舎者は」
という評判に変わっていった。







ある日の夜、
公安局の人間が二人ボクの部屋にやってきて、
「夫婦がどつきあいの喧嘩をしているという通報を受けてやってきたのだが」
という。

「ボクの部屋じゃなくて隣じゃないですか?」

「ん?お前と隣人の関係は?」

「無関係です!!」

「お、おお。そうか」


そしてふと階段の下を見るとワンさんが近所の人間と公安局員を巻き込んで、
シャオメイがいかに悪いかという自己主張大会をしていたり。








ある日の夜、
喧嘩して部屋を追い出されたワンさんを不憫に思った近所のばあさんが、
「シャオメーイ、ドンドンドン。シャオメーイ、ドンドンドン。
あんた出てきなさいよ。返事してよ。
旦那が可哀相じゃないの。
シャオメーイ、ドンドンドン。シャオメーイ、ドンドンドン。
あんた出てきなさいよ。返事してよ・・・・・」

ってのを一時間ぐらいやってたり。








ある日の夜(なんで夜ばっかしなんだろうか)
最初に仲介してくれた不動産屋を誰かが呼んだらしく、
近所の住人多数とシャオメイとワンさんとボクで大口論になったり。

ボクの前では
「シャオメイはこんなところがひどい」
とか言ってるくせに、
みんなの前に出るとなにも言えずに黙っているワンさんのことをむかついてきたり。






とにかく、
仕事で疲れて帰ってきてまでこんなくだらないことで神経をすり減らすのは本当に嫌で、
こっちが約束を果たしても向こうは一つも果たさないし、
こっちが請求されたカネを全て期限通りに払っても向こうは踏み倒してきたり。

そろそろこの部屋も潮時かなと、
この辛抱強いボクでさえそう思い始めていた。


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪



そしてある日の23時ころ、
ボクの部屋のドアをすごい勢いで

ガンガン

叩くヤツがいた。


ドアを開けるとそこには、
荷物をまとめて突っ立っているワンさんがいた。


(またコイツか)











「ケータ、

僕はシャオメイと別れることにした」




「どうしたんですか急に」



「彼女にはやはりオトコがいるのだそうだ。

僕からもらったお金もほとんどそのオトコに注ぎ込んでいる!」




「ちょっと落ち着いてくださいよ」



「僕は落ち着いてるよ!ハァハァ」





もともと黒髪だったシャオメイが最近はやけに明るい色の髪の毛に染めているし、
出かけるときの服装とかルージュの濃さから分かってはいたけれど、
なんて分かりやすい展開なんだろうかこの人達は。





「中に入れてくれるか? 」



「まぁ、少しだけなら」





ホントに優しいボクはまたしても冷蔵庫から冷えた缶ビールを出し、
彼に差し出してやった。


ビールを大きめの一口でグビグビっと飲んだ後。




「プハァ〜。

もうだめだー 。

あいつの汚さというか、

ずるがしこさというか、

私には到底手に負えないよ!」





「はぁ、それをこんな時間にわざわざ
どうしてなんにも関係のないボクの所に来て告白するんですか?」




「子どもには可哀相だけど、

シャオメイと別れてボクは台湾に帰るよ」


↑全然人の話きいちゃいない




「なんで子どもを置いて行くんだよ!!
シャオメイは確かにむかつくけど子どもは無関係だぜ。
子どもは育てられた環境によって人格が形成されるんだ。
子どもが本当に可愛いんだったらシャオメイの元に置いてちゃダメだよ。
無理やりあんたが引き取って台湾で育てることくらいのことしなきゃ。 」




「ケータはそういうけど、

最近その子どもがさぁ」





「なんですか?」




「ひどいんだよ。ぐすん」




「だから何がひどいんですか?」

















「ボクの胸ぐらつかんで、

父ちゃんカネよこせ!!

って怒鳴るんですよ!!! 」












「はい?」













「シャオメイの側に置いておくと、


純粋な子どもはみな・・・・ 」















「あの、ワンさん?」
















「まだ2歳の子どもなのに。


うわぁああああ


ああああああああん!! 」













♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪



金銭問題は未解決だったけれども、
そんなことよりも仕事以外のこんなくだらないことで神経を使うのがほとほと疲れてきたので、
ようやくというか、
ボクは他の部屋へ引っ越しすることにした。


せっかく中国いるんだし、
安いところの方が節約にも繋がる。
どうせ部屋なんか帰って寝るだけの場所なんだから。


そう思っていたけど、
部屋のことで悩みたくないと思って、
今度は大家上海人、
通常より良いマンション、
にこだわって部屋を探した。


このコラムはその新しい部屋から更新中であるが、
すこぶる快適である。







その後シャオメイとの約束の期限に以前の部屋を訪れて、
押金(敷金)を返してもらうことになっていたが、
予想通りというか、
なんだかんだ矛盾だらけの理由をつけてブツブツと文句を言っていたので、

「もういいです」


と言い残してその部屋を去ることにした。


途中シャオメイに、

「ワンさんはどうした?」

と聞いたら少し寂しそうな顔をして

「知らないわよ。台湾に帰ったわよ」

と言っていた。







ボクが一連の大家さん事件を通して思ったのは、
中国には色んなレベルの人間がいるということである。


もちろんそれは日本でも同じことなのだけど、
こっちのそれは格差が違いすぎると言うことに気づき、
都会の人間が田舎からの出稼ぎ労働者を毛嫌いする気持ちが、
おおざっぱに理解できたような気持ちになった。

もちろん田舎の人間でも良いヤツはいるわけですが、
みなさん。
中国で部屋を借りるときは、
値段と部屋の感じを見るのはもちろんのこと、
大家さんの質をよーく見てから決めましょう。

あ、
あと、
立ち小便しなくても良いようにちゃんと水道が来ているかどうかもね。



「アパートの大家さん・その5(最終話)」


おわり







2002.04.23 「アパートの大家さん・その4」


大家さんシリーズをずっとご愛読いただいている賢明なる読者諸君は既に予想できているとは思うが、
オッホン(せきばらい)
大家の旦那ワンさんは約束の11月には帰ってこなかった。

どうしてこうまで振り回されるのか。



彼が帰ってきたのは2002年の年も明け、
そろそろ1月も終わろうかという時だった。

仕事から帰ると近所のおばあちゃんが
「あんたぁ、シャオメイの旦那が台湾から帰ってきたわよ」
と夕飯支度の野菜の皮むきを、
道ばたでしながら教えてくれた。



おお、
遂に帰ってきたかダンディワンさん。

やはり紳士なワタクシには紳士が似合う。
恐らく交渉の席もスムーズに運び、
決着の日の丸を見る日もそう遠くはあるまい。


「ようやくこれで解放されるぜ」
そうはやる気持ちを抑えつつ、
ダンディワンさんと会うことにした。






ダンディワンさん、
ダンディワンさん、




ダンデ・・・・




















やあ、け・タ、ニーハオ!!
























ぜんっぜん、ダンデイぢゃなかった!!













♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

「まあいいとしよう」


台湾からの電話越しにはダンディなワンさんだったが(確かに地声もダンデイだ)
彼の容姿がダンデイじゃなかったことは問題ではない。
まあいいとしよう。


ボクの部屋にやってきた彼に、
彼の友人が家賃を徴収しに来たときと同じく缶ビールをあけてやり、
話を聞くことにした。




け・タ、今回は迷惑かけたな」


「いえ」


「しかし大陸のオンナは大変だよ」


「はあ」


「け・タも大陸のオンナと付き合うときは気をつけろよ」


(オレの方が大変だったんだけど)


「あいつはなぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 」



こうしてその後5分くらい彼のかみさんに対する愚痴をたっぷり聞いた後、



「け・タ、今回の一件は私が全てケツを拭うから、安心してください」


「なんどもしつこくてご免なさい、私、(け・タ)じゃなくて、(けいた)ですけど」


「おうおう、すまなかったケイタ。
台湾からの国際電話でも伝えたように、
彼女の起こした問題は裏で私が全て責任を持ちます」


「大丈夫ですか?」(←相当懐疑的になってる人)


「ああ大丈夫だとも。安心してください」



このあたりで5本目のビールをあけ終わっていたワンさん。


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

「一ヶ月ほど上海に滞在したらまた台湾に戻るから。
それまでに必ず問題は解決しますよ。
じゃまた遊びに来るから(この一言があとで大問題に) 」

そう言い残し、
缶ビールの残骸も残してワンさんは隣の自分の部屋へと帰っていった。



そして話は最終話の第五話へと続く。 (近日アップ予定)

「アパートの大家・その4」

おわり







2002.04.08 「アパートの大家さん・その3」


シャオメイが子どもを連れて台湾から帰ってきた。
夏のはじめ頃のことである。

台湾人の旦那は本業の貿易が忙しいとかで上海には来なかった。
彼は11月頃上海に来る予定だという。

真っ先にボクが聞いたことは、
公共料金踏み倒しの件。





「ワタシは払ったわよ。間違いなくね。このカラダを賭けてもいいわ」

「いやあなたのカラダは別に賭けなくてもいいけど、
ボクは水道代とかを2回重複して払ったので返して欲しいと思いまちゅ」

「いえ、あなたが完全に間違っているわ。
ワタシは払いました。失礼ね。プイ」

「・・・・・。
それでは、ボクのお部屋にたくさんの人が来てお金を請求していきました。
彼らはなぜ来たのですかね」

「知らないわよそんなの。どうしてワタシが知っているのよ!!

「しかし、おかしいと思いますよぉ!!
ボクの概念ではあなたはお金を支払っていないと思うアルよ!!」

流し目で大きくため息をついた後
ッチ(大きく舌打ち)
あなたね、あまり変な言いがかりつけると警察呼ぶわよ」

「ぷち」←ボクの中の何かが切れた音

っじゃですね、あなたがくれたこの支払い証明書ですが。
本当にゼニを払っただったら銀行のスタンプが押してあるはずです。
押してないのはなじぇですかオルァ


少したじろいで
「それはさ、
きっとさ、
うんとさ、
銀行のババァが押すの忘れたんだろーがよ!

「水代も電気代もガス代も全部です。
あなた本当はゼニ払っていませんね?
それから、
入居してから二ヶ月間、
内装工事をしていたからボクはガスも電話もなかったはずですが、
この二ヶ月の間、
毎月の電話代が300元とか、
ガス代が200元とか、
これ何ですか?」




「・・・・・」




「たぶん工事の人たちが勝手に電話をかけたりご飯を作ったりしていたんだと思いますが、
ボクにこれを払う責任はないと思いますから、
あなたが払ってくれますか?」




「・・・・・」




「どうなんですか!」




ブツブツ・・・・・」




「どうなんですかね!!」

「あら、おかしいわねぇマエハラさ〜ん。
ワタシは支払ったはずなんだけど。
そうねぇ。
ワタシもう一回銀行の人に聞いてみて、
確認取ってみますね。」

「ハァ?」

「ひょっとしたら銀行の人が押し忘れちゃってるかもしれないでしょ」

「おいおい、
一つ二つならまだしも全部が全部そんなことあるわけねーだ・・・」

「あ、いっけなーい。
ワタシったらご飯の準備しなくちゃ。
それじゃーねマエハラさん」

「あ、おい、テメーちょっと・・・」

「ガッチャン!」




・・・・・。
帰ってしまった。

彼女はお手伝いさんを雇っていて、
料理を作る所なんか一回も見たことないのに。

1週間もしないうちに彼女はまた子どもを連れて、
ボクが仕事でいない間に黙って台湾へ行ってしまった。


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

9月に入って半年ごとの家賃更新日がやってきた。

家賃の徴収に来たのは台湾人の旦那の友人で、
タクシードライバーをしているという上海人のオッサンだった。

挨拶もそこそこにボクは開口一番こう切り出した。





「ボクちんお金払いませんから」

オッサンは
「なぬ?」
という顔。

「ボクちん、お金払いたくありませんから」

「え、
あのー。
ちょっとまってくれよセニョール・マエハラ
訳を話してくれ」



何も知らずにやってきて、
いきなりのボクの失礼な言葉にも動じず、
「訳を話せよ、聞くぜセニョール」
と言ってくれるこのオヤジ。
なかなか良いヤツそうである。


気を取り直して、
ボクは冷蔵庫から冷えた缶ビールを彼にあけてやってから、
2ヶ月間近所の人間からアホ呼ばわりされながら立ち小便した思い出や、
公共料金の踏み倒しがうやむやのまま放置されている問題や、
そもそも2ヶ月も工事をしていて部屋が使えなかったのに、
それに対する詫びの一言もない不満などを、
つたない中国語で彼に伝えた。



彼は聞き取りづらいであろうボクの言葉を、
一言一言かみしめるように聞きながら、
友人である台湾人の旦那との出会いの思い出話を織り交ぜつつ、
最後にこう言った。


「セニョールの言いたいことはすごく分かる。
確かにあの嫁さんは問題も多いし、
それは彼の友人であるオレも感じていることだ。
だけど、
全額支払わなかった場合、
中国の法律では逆にセニョール・マエハラの方が不利な立場に立たされてしまう。
ここで一元ももらわなければ、
代理人であるワタシの立場もないし。
ただ、
あんたの言うことももっともだから、
ここは3ヶ月分だけワタシの顔を立てて支払ってはくれんだろうか?」


「はぁ」


「残りの後半3ヶ月分は公共料金の問題や、
内装工事中の家賃のことなでも含めて大家との交渉がすんだ後に、
差引残高を支払えばいいじゃないか。
そういう問題を抱えていると言うことを、
ボクは友人であるワンに伝えておくからさ」


うむ、
正論である。



「ワンは良いヤツだ。
話せば分かる男だ。
残された問題のことは必ず彼に伝えるから、
セニョール、
ここはあんたも大人になって3ヶ月分だけでいいから、
支払ってはもらえんだろうか」




そう言われちゃあ気前の良い三河っ子としては黙っていられない。

彼の言うように3ヶ月分の家賃を支払い、
堅く握手を交わした後、
彼は満面の笑顔を振りまきながら原付で元気よく帰っていった。


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

王 愈誠(ワンさん)からの国際電話。






「プルプルプルッ」

とあるウィークデイの早朝、
電話のベルが鳴った。

ベッドからはい起きて
「うぇ〜い」(中国語のもしもし)

マウハラケ・タか?

「しぇんま!!?」(「は?」っていう意味)

「ケ。タ、ボクはシャオメイの旦那です」


来た来た来た!!
この時を待っていたぜ。


あの家賃徴収代理人オヤジ、
きっちり伝えてくれたんだな。





「け・タ、どうした。なにか問題あったか?」

「あのー、け・タじゃなくて、ケイタですけど」

「そかそか、ごめんごめん。で、ケ・タどうした。うちの奥さんなんかやらかしたか?」

「えーっと、ケイタですけど。
あなたの奥さん問題多いですよ」

「おおケイタ。聞いたよ。なんだか迷惑かけたみたいですね
ごめんなさい。」


(ん、こいつなななか良いヤツじゃないか)
ここからボクの態度は軟化してゆく。




「オレの友人(家賃を取りに来たオッサン)から少しだけ内容を聞いたけど、
どうした。どんな問題があった。話してくれマウハラ・ケタ」


ボクはそれまでの経緯を、
誇張することもなく素直に話した。




「そうかそれは迷惑かけたな」
「じゃあ彼女が犯したミスはボクがフォローするから」


「え、どういう事っすか」


「まず彼女があなたに対して支払わなければならないもの。
これはボクが全て支払います。」
「例えば公共料金の問題や、
2ヶ月間ほぼ部屋が使えない状態だったにも関わらず、
家賃を全額支払い続けていたと言うことに対する支払いなどです」


「え、ホンマですか?」


「本当です信じてください。
彼女は大陸の田舎人間です。
多少お金に対して汚いところや執着心があるのかもしれませんが、
ご迷惑をおかけした部分があるのでしたらこの場を借りて私が謝ります。
すみませんでした」


「いや、あの」


「私は台湾人です。
小さな貿易会社を営んでおりますが、
事業は非常に順調です。
支払うべきものは支払いますからどうか安心してください。」


「いや、ボクが言いたいのはお金の問題じゃなくて、
あなたの奥さんの態度の問題なんですけど。
ボクだって大金持ちじゃありませんけど、
貧乏でもないですから」


「すみません問題の多い家内で。
ただ、
ボクが彼女の肩代わりをしてあなたにお支払いをすると言うことを、
決して彼女には言わないでください」


「ん、どうしてですか?」


「そういうことに関して彼女はとてもナーヴァスに反応するんです。
そんなことで問題がかえって大きくなってもいけませんから、
ここはスムーズに事を運びたいのです」


「なるほどそうですか。
ではあなたが上海に戻ってくるのはいつ頃ですか?」


「11月頃を予定しています」


「分かりました。
ではあなたといろいろなお話ができることを楽しみにしています」


「それではケ・た、さようなら。 がっちゃん」






うむ、なかなか人の良さそうで、しかも話の分かるダンディなオヤジだな。
ボクの住んでいる部屋の内装趣味なんかも悪くないし、
このあたりは台湾人の意見が入っているのだろうか。
どちらにしても彼が夫としてきちんと機能しているのならそう心配することもなさそうだ。

ここはオレも少し大人になって、
シャオメイの戯言は軽く聞き流し、
彼の帰りをトリノステーションワゴン(大船)にでも乗った気持ちで待つか。


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

第3話はなんだかとてもまったりと進んでしまったけれど、
4話以降、
はなしはとんでもない方向に進んでゆく。

「アパートの大家・その3」

おわり